<ホームページへの寄稿>

 長澤晴浩は、武蔵野音楽大学に学び、ザルツブルク・モーツァルテウム音楽院の夏期講習も受講したピアニストであり、
1988年にチェコで開催された「第5回視覚障害者のための国際コンクール」で特別賞を受賞した他、
いくつものコンクールやオーディションでも受賞歴を有している人物である。
そして、1985年に東京でデビュー・リサイタルを開催した彼は、
それ以来、後進の指導、点字楽譜の校正作業、点字楽譜の点訳法の研究など、多方面で活躍しながら、積極的な演奏活動を続けているが、
「長澤晴浩ファースト・セレクション」と銘打たれた彼のデビュー・アルバムは、それに接した筆者に予想外の深い感銘を与えた。
彼のピアニストとしての質の高い資質を鮮明に浮き彫りにした内容のこのアルバムでは、非常に筋の良い表現が一貫して繰り広げられており、
それが聴き手に素直な感動を授けてくれるのである。
長澤は、概してやや遅めといえるテンポを好むピアニストのようであるが、
粒の揃ったムラのない美しいタッチを駆使し、そうしたやや遅めのテンポで語り継がれていく彼の演奏は、豊かな歌心やひたむきな情熱に溢れており、
さらにそこでは、このピアニスト独特のナイーヴでセンシティヴな感受性がふんだんに息づいている。
そして、そこから生まれるすこぶるヒューマニスティックで純度の高い音楽表現は、あらゆる聴き手を魅了せずにはおかない強いアピールを放っているのである。
楽譜から極めて豊かな音楽を感じ取った長澤は、まさに切れば血の出るような人間的な演奏を聴かせているが、
彼のこうしたアプローチは、作曲者と彼の魂の邂逅を想わせる精神性の高い作品の再現を可能たらしめている。
9曲の作品に秘められた作曲者の感情や主張にシャープに感応し、それを自己の無垢でロマンティックな感受性を通じて表現した長澤の演奏は、
本物の音楽に接したという手応えのある感動を筆者に与えてくれたのである。

<柴田龍一>

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