柴田龍一氏からの嬉しいメッセージ

下記批評は以前2010年に発売した『ファーストセレクション「安らぎと愛」』での評を書いて下さった音楽評論家柴田龍一先生からの温かいメッセージ全文を掲載するものです。

掲載日:2016年4月12日(火)

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   長澤晴浩第8回ピアノリサイタル

 長澤晴浩は、以前から演奏活動に只ならぬ情熱を燃やし、質の高い演奏活動を継続しているピアニストである。
そして、デビュー30周年を記念して2015年8月26日に開催された彼の第8回リサイタルは、
このピアニストの最近の成長と充実をはっきりと伝える内容であり、
筆者に非常に強い印象を与えた。
当夜のプログラムは、シューマンの「アラベスク」、「交響的練習曲」、フランクの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」であったが、
結論を先に述べさせていただくと、長澤は、表現の積極性と力強さを大きくアップさせ、
驚くほど表現力が豊かな演奏を聴かせてくれたのである。
長澤は、そもそもがとてもセンシティヴでナイーヴな感受性の持ち主であり、
そうした資質を生かして楽譜に秘められた作曲者の感情を実に豊かに感じ取り、
それを物怖じしないでストレートに自信をもって表現するピアニストである。
そのような彼の演奏に対する姿勢は、筆者に深い感銘を与えずにはおかぬものであったが、
過去の彼の演奏は、その率直で純粋な音楽的魅力がたまらないものであった反面、時に線の細さを感じさせる一面があったことも否定はできなかった。
しかし、当夜の演奏は、思いがけないほどにアピールの強さを増しており、
彼が明らかに脱皮を遂げ、コンサート・ピアニストとしての新しい境地を開いていることを実感させた。
それは、冒頭の「アラベスク」から直ちに筆者にその変化が小さなものではない事実を感じさせた。
彼は、このロマンティックで愛らしい小品から意外なほどの感情の起伏の豊かさを引き出し、筆者を驚かせたのである。
そして、最近の彼が獲得した表現力の雄弁さは、
それに続く「交響的練習曲」で非常に顕著に発揮され、そのドラマティックでスケールの大きい表現が聴き手を圧倒した。
さらにここでは、内声部や低音部の1つ1つの音符もが入念に吟味され、
その音楽的意味を明確なものとして描出されていたこともが光彩を放っていた。
この点だけをとっても、それは、彼の大きな進歩として注目されてよいだろう。
最後のフランクでは、長澤のピアノと佐藤博志のヴァイオリンが有機的に絡み合い、
めったにないほどに燃焼度の高いデュオが実現されており、その情熱のほとばしりが聴き手を圧倒した。
大きな成長の跡を痛感させた長澤の演奏は、今後の彼の活動に特別な期待を抱かせずにはおかない。

              〈柴田龍一〉


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