第9回ピアノ・リサイタル批評(ムジカノーヴァ2024年1月号より)

下記批評は『ムジカノーヴァ』2024年1月号62ページ内で原 明美(はら あけみ)氏の執筆により掲載された者を転載したものです。


『ムジカノーヴァ』2024年1月号

武蔵野音楽大学を卒業した長澤晴浩は、1988年にチェコで開催された「第5回視覚障害者のための国際音楽コンクール」で特別賞を受賞するなどの入賞歴を持ち、
現在は演奏活動のほか、後進の指導や、点字楽譜の校正作業などの活動も続けているピアニストである。

 当夜は、第9回リサイタル。
はじめに本人からアナウンスがあり、「〈音〉に祈りを込めて」と題した今回のプログラムの前に、今は亡き大切な人たちへの感謝の気持ちをこめて、との趣旨により、
ショパン《ピアノ・ソナタ第2番「葬送」》第3楽章の中間部と、バッハ《主よ、人の望みの喜びよ》が演奏された。

 そして、リサイタルの本編は、フォーレの作品から、《夜想曲第2番》ロ長調作品33-2と《舟歌第1番》イ短調作品26に始まった。
長澤は、フォーレならではの内省的な楽想を自身のなかで深く味わいながら、ニュアンスを紡いでゆく。
今回の使用ピアノは、1912年製ニューヨーク・スタインウェイCD368「ルイス」であり、その独特の音色を活かした響き作りも印象的だった。

 続いて、ヤナーチェクの作品。《草陰の小径にて第1集》より第1曲〈われらの夕べ〉、第2曲〈散りゆく木の葉〉、第4曲〈フリーデクの聖母マリア〉と、《霧の中で》の第1曲〈アンダンテ〉が演奏された。
深い悲しみの表現など、悲痛な場面を含むこれらの曲について、長澤は、節回しのなかに切なさと、清らかな祈りを織り交ぜて、ニュアンス豊かに聴かせる。

 後半の曲目は、リストの作品から、《巡礼の年 第3年》の第4曲〈エステ荘の噴水〉と、《2つの伝説》。
長澤は音色美を印象づけながら、静かな祈りと力強い祈りを織り交え、ドラマティックに仕上げている。
当夜の演奏には、リサイタルのタイトルどおり、このピアニストの祈りの心情が、様々な形で表現されると同時に、彼の真摯な姿勢も反映されていたと言えるだろう。

(10月17日、東京文化会館小ホール)
原 明美

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