下記批評は『音楽の友』2015年10月号内で小倉 多美子(おぐら たみこ)氏の執筆により掲載された者を転載したものです。
武蔵野音楽大学卒業、視覚障害者のための国際音楽コンクール(チェコ)や第1回クラシック音楽演奏家オーディション(10)で特別賞を受賞、
点字楽譜の点訳法の研究等でも活躍している。
デビュー30周年の当夜は、前半《アラベスク》と《交響的練習曲》でシューマンを聴かせ、後半は「以前から共演したかった」と言う佐藤博志を招きフランク「ヴァイオリン・ソナタ」を組み長年の夢を叶える舞台となった。
長澤の音は無類に美しい。加えて、根音上に乗せられた和声構成音と低音との響き合わせるような音色、
第3音の上方に乗せた根音が際立ちながらやはり低音の第3音と呼応して生む6度の絶妙な音色など、倍音も聞こえているのではないかと思わせる美しさで、ピアノという発展する楽器の響きの可能性を拓いたシューマンの模索を音に響かせた好演だった。
《交響的練習曲》は、細かな表情に分け入る演奏。
フランクでは、冒頭の序奏や第3楽章など夢幻的な美しさが随所に光り、深みのある洒脱さが滲み出た。
(8月26日・東京文化会館〈小〉) 〈小倉多美子〉