下記批評は『ムジカノーヴァ』2015年11月号内で雨宮 さくら(あまみや さくら)氏の執筆により掲載された者を転載したものです。
武蔵野音楽大学を卒業し、演奏活動のかたわら、後進の指導、点字楽譜の校正や点字楽譜の点訳法の研究など、多方面にわたり活躍している長澤晴浩の、デビュー30周年記念リサイタルを聴く。
当夜の曲目は前半にシューマン《アラベスク》作品18と《交響的練習曲》作品13。
後半はヴァイオリニストの佐藤博志氏(東京藝術大学卒業)をゲストに迎えて、フランク《ヴァイオリンとピアノのためのソナタ》イ長調。
記念演奏会ともなれば、つい力が入ってしまいがちだが、気負いのまったくない自然体での演奏で、自信と余裕が感じられた。
前半のシューマンでは、主観と客観、双方からの捉え方のバランスがよく、作曲家の複雑な心理状態が込められた曲を虚飾なく淡々と弾くことで、弾き手の人生観も投影されていた。深い精神性が率直に語られていて、爽やかだった。
まずは軽やかな柔らかさで始まった《アラベスク》。
続いて多彩な音色で懐深く弾かれた《交響的練習曲》、両曲とも安定したテンポ運びで、よく整理された好演。
後半のヴァイオリンとのセッションでも、感じるままにといった素直な演奏スタンスが、心に響いた。ヴァイオリンの音は魂に染み入る美しさで、2人の主張や両者の音量バランスも申し分なかった。
全体に、山紫水明といった趣の一夜。