第7回ピアノ・リサイタル批評(ムジカノーヴァ3月号より)

下記批評は『ムジカノーヴァ』2011年3月号内で家永 勝(いえなが まさる)氏の執筆により掲載された者を転載したものです。


        長澤 晴浩
    今回「デビュー25周年記念コンサート」とあった。
 彼は武蔵野音楽大学を卒業後広く演奏活動を続けて来たが、現在は後進の指導の他、
 点字楽譜の校正作業、点訳法の研究など多方面にわたり活躍中である。
  冒頭はシューベルトの≪楽興の時≫作品94/D.780全6曲。
 通してこの曲の沈殿している内面的なものを、とてもうまく表現する実に丹念で行き届いた演奏であり、
 神経の細やかさも備えて1曲ごとの特徴をみごとに捉えており、曲の内面的な情緒の感情表現がとてもうまい。
 同じくシューベルトの≪即興曲≫作品142-3/D.935-3。
 ここでの透明感のある音色は美しく、変奏の起伏もおもしろく感情の盛り上げも良い。
 緻密な音楽の流れをつかんでおり、上下する細やかなパッセージも実にみごとに聴かせる。
 後半のモーツァルトの≪幻想曲≫KV.397でも細やかな神経が隅々まで行き届いており、
 肌理の細かい音楽表現での叙情的なフィナーレが印象的。
 ショパンの≪ノクターン(遺作)≫でも曲の本質がとてもよく把握できており、むせぶが如き旋律を浮き立たせる。
 ドビュッシーの≪アラベスク第1番≫ではもう一歩フランス的な香りの強さがあってもよかったが、
 3連符で下降するフレーズの雰囲気はみごと。
 ≪版画≫3曲中の<グラナダの夕暮れ>ではスペイン的な雰囲気と共に独特なリズムを表出、やはり丹念な音楽作りに成功。
 <雨の庭>でも細やかなアルベッジョの雨の表現はみごとに描かれ巧妙な描写性がうまく表出されての表現で、音楽の変化が魅力的。
 アンコールの<月の光>は絶品であった。実に鋭い感性と心に音楽を持ったこの人の演奏は、
 聴きごたえ充分で大変楽しめた。(11月14日、 JTアートホールアフィニス)家永 勝


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