第5回ピアノ・リサイタル批評

下記批評は『ムジカノーヴァ』2006年2月号内で野平多美氏の執筆により掲載された者を転載したものです。




長澤晴浩 ピアノ・リサイタル

 長澤晴浩は、きわめて音楽性の高いピアニストである。
武蔵野音楽大学卒業後、1985年にデビュー・リサイタルを開き、以来
コーラスの伴奏者として海外公演に同行したり、自身の企画による室内楽コンサートを開いたり幅広く活動している。
そのかたわら、点字楽譜の校正作業などや楽譜点訳法の研究も行っているという。

さて、シューベルトの《即興曲変ト長調》は、感傷的なだけでなく、とても素直な音楽の流れであった。ロ長調への転調過程が美しく印象に残る。

同幻想曲ハ長調D760《さすらい人》は、構成が明確であり、とりわけ変奏曲が興味深かった。時折ペダルのにごりが気になったことは惜しまれる。

長澤のショパンは、実に清潔。
《舟歌嬰ヘ長調》作品60では、イ長調から転調を重ねる中間部以降はぎこちなさがとれて、より大らかなゴンドラの動きが描き出されていた。
《24の前奏曲》作品28は、3曲省略された長澤バージョン。短いエピソードの連続を、軽妙な語り口で歌っていく。時折気持ちがせいて、細部が不明瞭になることもあったが、音の指向性がはっきりしているので、聴く者を戸惑わすことがない。何よりもまずは音楽であり、それが快かった。
(11月2日、津田ホール) 野平多美



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