第6回ピアノ・リサイタル批評(音楽の友2008年2月号より)

下記批評は『音楽の友』2008年2月号内で道下京子(みちした きょうこ)氏の執筆により掲載された者を転載したものです。




●長澤晴浩P

 長澤は、武蔵野音楽大学の出身。
 視覚的に障害を持っているが、定期的なリサイタルのほかに、国内外で演奏活動を行なう。
 プログラムは、まずバッハ《フランス組曲第5番》。
〈クーラント〉において、自由に放たれる右手による旋律と、左の上下行するパッセージを力強く鳴り響かせ、時にハーモニーの軸の音を敢えて躍動的に強調する事で、生き生きとした表現を与えた。
 指の抑制がよく効いており、〈ジーグ〉においても、内声を巧みに扱って、優れて立体的なバッハを現出させた。
 モーツァルト「ソナタ第8番」では、エネルギッシュな第1主題と、ソフト・ペダルを効果的に用いて柔和な雰囲気を漂わせた第2主題とのコントラストをはっきりさせた。
 音楽作りの基礎をおさえ、シンプルで素朴な響きが何とも言えず心地よい。
 それは、シューベルト「ソナタ第21番」においても顕著であった。
 丹念なレガート奏法により、1本の旋律線をじっくり歌い上げていた。
 反面、全体を通して音の色彩に乏しい点が惜しかった。(11月30日・津田ホール)
 (道下京子)



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